血管内治療科

午前診
9:00 – 12:30
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寺嶋 - - - - -
午後診
カテーテル
治療
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当科の特色

当院では、肝動注化学療法を始めとした、IR(Interventional Radiology: 画像下治療)の技術を用いて
肝細胞がんや肝内胆管がん、転移性肝がん(他の臓器から肝臓へ転移した腫瘍)に対して肝動脈化学塞栓療法(TACE)、肝動注化学療法(TAI)を行っています。
そのために最新型のCT一体型血管造影装置を導入しています。この装置を使うことでCT画像とX線による透視画像を同時に撮像することができ、より正確に、安全に血管内治療を行うことができます。

当院のCT一体型血管造影装置(IVR-CT)

医師紹介

寺嶋 千貴

  • 経歴

    平成13年 神戸大学医学部卒業
  • 資格等

    放射線治療/粒子線治療/肝胆膵領域のIR 日本医学放射線学会専門医(放射線治療) 日本癌治療認定医機構認定医 医学博士
  • 所属

    兵庫県立粒子線医療センター放射線科長

当院で行う各種血管内治療

肝動脈化学塞栓療法(TACE)

肝細胞がんに対する標準療法の一つです。肝動脈に挿入したカテーテルの先端より抗がん剤と血管塞栓物質の混合剤を注入し、腫瘍への動脈血流を遮断するとともに抗がん剤による腫瘍の壊死効果を得ます。
当院ではCT装置と一体型の血管造影装置を用いることで、正常の肝組織への無駄な薬剤の注入を避け、腫瘍だけを集中的に治療することができます。

対象

肝細胞がんや一部の富血管性腫瘍

動注化学療法(TAI)

そけい部(足の付け根)や左鎖骨窩の動脈からカテーテルを動脈内へ挿入し、腫瘍のある組織までカテーテルを進め、腫瘍に分布する動脈から抗がん剤を注入します。動注療法では、カテーテルから注入した抗がん剤のほとんどが腫瘍へ直接流入するため、高い局所治療効果を得ることができます。 また点滴や内服による全身化学療法に比べると、抗がん剤の使用量を少なくすることができるため、副作用も軽くて済みます。
反面、動注療法を行った腫瘍以外への効果はほとんど得られないため、全身化学療法との組み合わせが重要となります。
動注療法終了後は動脈からカテーテルを抜去し、数時間の動脈圧迫、安静が必要になります。

対象

転移性肝がん(特に大腸がんや直腸がん、胃がん、膵がん、肝内胆管がんからの肝転移)、他の治療法が困難な肝細胞がん、胆管細胞がん、肺がん、膵がん、骨盤内腫瘍、頭頸部がんなど

リザーバー動注化学療法

動注化学療法(TAI)は、数日から数週間の間隔をあけて、何回も繰り返します。そのために毎回、動脈にカテーテルを抜き差しすると動脈が痛んでくるため、何回も動注療法を繰り返す必要がある場合には、カテーテルを動脈に置いたままにします。カテーテルの先端は腫瘍の動脈、根元はポートという小さな器具に接続し、皮下に埋没させます。そうすることで、毎回ポートに注射針を刺すだけで、動注療法を簡潔に行うことができます。肝動注療法の期間が終了し、カテーテルやポートが不要になった場合には、それらを抜去することもできます。

対象となる疾患

転移性肝がん(肝臓転移)

特徴
がんの転移の仕方には大きくわけて「経静脈性転移」と「経リンパ管転移」の2種類があります。「経リンパ肝転移」の場合にはがんの発生した臓器の近くのリンパ節から遠方のリンパ節へと順次転移していくことが多く、手術によるリンパ節郭清を行えば、リンパ節転移を系統的に切除することが可能です。
反面、「経静脈性転移」は静脈の中にがん細胞が入り込むため、静脈から心臓、全身へのがん細胞が巡っていくことになり、体中のあらゆる臓器に転移を来してしまいます。
ところが、大腸がんや胃がんなどの消化管がんの経静脈性転移は特に肝臓に起こりやすいことが知られています。肝臓に遠隔転移が起こりやすい理由は消化管と肝臓をつなぐ「門脈」という静脈が存在するからです。消化管で吸収された様々な栄養や水分は、ほぼすべて門脈に集められ、肝臓へと送られます。それによって吸収されたタンパク質や糖分などが肝臓で変換、代謝されてから全身へ送る仕組みになっています。同様に大腸や胃の静脈に入ったがん細胞も門脈を経由して肝臓へと送られてしまい、肝臓に転移を起こしやすくなってしまいます。逆に、肝臓がフィルターの役目を果たすため、肝臓を超えて全身の臓器に転移をすることが少ないことも分かっています。

切除療法

転移性肝がんの中でも、消化管がん、特に大腸がんの肝臓転移に対しては、手術による切除が行われてきました。大腸癌は肝臓以外に転移することが少ないため、大腸癌原発巣を切除した上で肝臓転移さえ切除できれば根治が目指せるからです。ところが、肝臓転移が多発していたり、肝機能がもともと悪かったりする場合には切除が困難となります。そのような場合には、まず全身化学療法を行わなければなりません。消化管がんの全身化学療法は近年非常に進歩しており、以前よりもさらに延命効果が高くなってきています。
肝臓転移に対する他の治療法として、ラジオ波焼灼療法や放射線治療(粒子線治療)、肝動注化学療法(リザーバー肝動注化学療法)があります。

ラジオ波焼灼療法

ラジオ波焼灼療法は、局所麻酔を使って肝臓の腫瘍に電極を刺し、熱によって腫瘍を焼く治療法です。比較的治療効果が高いですが、あまり大きな腫瘍は熱が伝わらずに焼き切ることができません。また腫瘍の数が多い場合にも適応になりません。

放射線治療

放射線治療は体外から放射線をがん組織に照射して、がん細胞のDNAを損傷させることでがん組織の縮小、根治を図ります。X線を用いた放射線治療の中では体幹部定位放射線治療(SBRT)が有効とされています。また、粒子線治療(陽子線や重粒子線)は正常な肝臓へのダメージを最小限にすることができ、さらに高い治療効果が期待できますが、国内で「先進医療」という扱いとなっています。

肝動注化学療法

転移性肝がんに対して前述の「切除」「全身化学療法」「ラジオ波焼灼療法」「放射線治療(粒子線治療)」が困難であったり有効でないとされた場合、肝動注化学療法が選択肢となります。具体的には、肝転移が多数あるために切除ができず、全身化学療法を行ったものの副作用が強すぎて継続できなくなったり、効果がなくなったりした場合です。このような場合には肝動注療法であれば副作用を抑え、治療効果が得られる場合があります。
肝動注化学療法の詳細はこちら

特徴
肝臓を原発とする中で最も頻度の高いがんです。B型肝炎やC型肝炎などのウィルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎などの肝臓の慢性炎症があると、がんが発生しやすくなります。肝臓はもともと予備能力の高い臓器であるため、癌が小さい間はまったく症状が出ません。ある程度がんが進行してしまって初めて腹痛や発熱、倦怠感、黄疸などの症状がでるため、がんの診断が遅れてしまいがちです。そしてがんが見つかったとしても、肝臓を全部切除してしまうことができないため、切除が難しく、根治が困難な場合があります。

肝細胞がんの治療選択肢
肝細胞がんに対する治療法には、肝移植、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、肝動注化学療法、放射線治療(粒子線治療)があります。

肝移植

年齢が若く、がんの進行がある程度限られている場合(ミラノ基準が一般的)には肝移植が最も治療効果の高い方法だと考えられていますが、日本にでは生体肝移植しかできず、ドナーの選択が限られていることから、必ずしも肝移植が積極的に行われているわけではありません。

切除

肝細胞がんが単発の場合には切除が標準療法とされています。切除してしまうことが、がんの根治の確率が最も高いということは様々な治験によって証明されています。特に年齢が若く、ウィルス性肝炎がなく、肝機能が正常に近い場合には切除以外の治療法を選択する余地はあまりありません。

ラジオ波焼灼療法

肝細胞がんが直径3cm以下で3個以内であれば、ラジオ波焼灼療法が切除と同等の治療効果が得られることが分かっています。局所麻酔で治療が可能なので、切除と比較すると負担が少なく、がんの根治が狙えます。ただし、がん組織が肝臓内の大血管(肝静脈や門脈)に接している場合にはラジオ波焼灼療法が難しい場合があります。

肝動脈化学塞栓療法

肝細胞がんが多発しており切除やラジオ波焼灼療法が難しい場合や、肝機能が悪くて切除ができない場合には、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が行われます。足の付け根の動脈にボールペンの芯くらいの太さのカテーテルを挿入し、大動脈から分岐する肝動脈を経由して肝臓内のがん組織の近くまでカテーテルを進め、そこから抗がん剤と塞栓物質を注入し、動脈を閉塞させることで、がんの治療を行います。特にがんの個数がある程度限られる場合(up-to-7基準が標準的)にはこの方法で根治を狙うことができます。最近では肝動脈化学塞栓療法の直前にレンバチニブという抗がん剤の一種(分子標的薬)を内服することで、さらに治療効果を高められるということが分かってきました。

図:肝細胞がんに対する肝動脈化学塞栓療法

Up-to-7基準とは?

肝細胞がんが肝臓内に多発している場合、その個数と最大病変の長径の合計が7以下の場合をup-to-7 inとし、8以上の場合をup-to-7 outと定義します。
たとえば、4cmの肝細胞がん1個と1cmのがん2個の場合、4+3=7となり、「up-to-7 in」と判断されます。

全身化学療法

肝動脈化学塞栓療法の効果が良くないとされるup-to-7 outの場合や、門脈や静脈への腫瘍栓を合併している場合には、全身化学療法が行われます。全身化学療法の代表的な方法としては、内服薬としてソラフェニブ(ネクサバール)やレンバチニブ(レンビマ)などが行われます。特に最近では新世代の化学療法として、免疫チェックポイント阻害剤であるアテゾリズマブ(テセントリク)と分子標的薬であるベバシズマブ(アバスチン)の併用療法使われることが増えています。

肝動注療法

全身化学療法ができない場合や、効かなくなった場合には、肝動注療法が選択肢となります。肝臓転移に対する肝動注療法と同様の手技(リザーバー留置)を用いて、肝細胞がんに対して抗がん剤の直接注入を行います。使用する抗がん剤の方法として、アイエーコールという抗がん剤を隔週で注入する方法、New-FP療法というアイエーコールと5-FUを5日間連続で注入する方法などがあります。

放射線治療(粒子線治療)

巨大な肝細胞がんや、門脈や静脈への腫瘍栓を合併した肝細胞がん、切除やラジオ波焼灼療法ができない肝細胞がんに対しては、放射線治療が有効な場合があります。特に放射線治療の一種である粒子線治療(陽子線や重粒子線)を用いると、局所的に根治が得られる場合が多く、日本では2022年より保険が適用されています。詳細は「肝細胞がんに対する粒子線治療とは? 粒子線治療のメリット、デメリット」(https://medicalnote.jp/contents/190924-003-ZX)をご参照ください。

肝動注化学療法について

特徴
日本では以前から積極的に大腸がんの肝転移に対して肝動注化学療法が行われてきました。特に全身化学療法が出来ない場合、全身化学療法の副作用が強くて続けられない場合、全身化学療法の効果が見られなかった場合などに、肝動注化学療法の保険適応が認められています。
方法
肝動注化学療法を安全に継続していくために、カテーテルは一度体内に留置し、置きっぱなしにしてしまいます。日本ではWHF療法という5-FUという抗がん剤を週1回で注入する方法が標準的に行われています。当院では毎週1回の肝動注化学療法以外にも、2週間毎の動注の方法も行っています。最近ではFOLFOX動注という方法が中国より報告され、非常に良好な治療成績が示されています。
図:留置したカテーテル
図:ポートの模式図
図:ポートの穿刺

具体的な方法論については日本IVR学会より2020年に「肝動注リザーバー療法に関するガイドライン」が発行され、学術的、科学的なガイドラインを参照することができます。
https://www.jsir.or.jp/about/guide_line/h_reservoir/

適応
大腸がんの肝転移がもっとも重要な適応となりますが、その他のがん(たとえば胃がんや直腸がん、膵臓がん、肝原発がんの肝臓内への転移など)であっても、肝臓に転移したがんが命に関わると判断される場合には肝動注化学療法の適応となります。

①大腸がんの肝転移
②その他のがんの肝転移
③原発性肝がんの肝内転移
これらの肝転移が生命予後に関わる場合
スケジュール
当科初診、説明、入院日決定
月曜日:午前入院、午後から肝動注化学療法および肝動注リザーバーカテーテル留置術
翌週月曜日:2回目の肝動注化学療法後、退院
以後、外来通院にて肝動注化学療法を継続

お問い合わせ

当科ではさまざまながんに対する血管内治療や動注療法、放射線治療について相談を受けております。